ホーム トピックス 「無農薬」「無化学肥料」と表示できない理由|正しい伝え方と法的根拠

「無農薬」「無化学肥料」と表示できない理由|正しい伝え方と法的根拠

「無農薬」「無化学肥料」といった言葉を見て、なんとなく体にやさしそう、安全そうと感じる方も多いかもしれません。

ただ、スーパーやECサイトなど不特定多数の消費者に向けた販売では、農林水産省のガイドラインによりこれらの表現は使用が禁止されています。
一方、農家が直売などで特定のお客さんに販売する場合はガイドラインの適用外となり、事実であれば使うこと自体は問題になりません。

今回は、なぜそのようなルールがあるのか、その背景と正しい伝え方について解説します。

「無肥料」「無農薬」が使えない理由

ガイドラインで禁止されている

農林水産省が定める「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」(平成19年3月改正・最終版)において、表示禁止事項として以下が明記されています。

「『無農薬栽培農産物』、『無化学肥料栽培農産物』、『減農薬栽培農産物』、『減化学肥料栽培農産物』等の表示」
——特別栽培農産物に係る表示ガイドライン 第5(7)

このガイドラインは平成4年に制定され、農薬や化学肥料を減らして栽培した農産物の表示ルールを定めたものです。
平成15年の改正でこれらの表現が禁止され、平成19年改正が現行版となっています。

引用元:特別栽培農産物に係る表示ガイドライン 本文PDF(農林水産省)

ガイドラインが適用される範囲

ただし、このガイドラインには適用範囲があります。第1条に「不特定多数の消費者に販売されるものに適用する」と明記されており、すべての販売形態が対象になるわけではありません。

販売形態 ガイドライン適用 「無農薬」表示
スーパー・ECサイト等で
不特定多数に販売
適用される 禁止
農家が直売・顔の見える関係で
特定の顧客に販売
適用外 事実であれば使用可

農家が自分の畑で直接お客さんに手渡すような販売では、「無農薬で育てました」と伝えること自体はガイドライン違反にはなりません。

ただし、ガイドラインの適用外であっても景品表示法は常に適用されます。
実際には農薬を使っているのに「無農薬」と表示すれば、優良誤認として問題になります。
あくまで「事実であること」が前提です。

なぜ誤解を招くのか?

「無農薬」という表示が問題視された理由は、生産者と消費者の間に認識のズレがあったからです。

さらに、「無農薬」が有機JAS認証よりも優良だと誤認していた消費者が6割以上いたとされています(総務省「食品表示に関するアンケート調査」平成14年より、農林水産省ガイドラインQ&Aに引用)。

具体的に、農家が農薬を一切使わなくても避けられない影響には以下のようなものがあります。

  • 周囲の畑から風で農薬が飛んでくる(ドリフト)
  • 大雨や洪水で、近隣の肥料や農薬が流れ込む
  • 土の中に、過去に使われた農薬や肥料の成分が微量に残っている

こうした要因があるため、「完全にゼロ」と断言することは難しく、消費者に事実以上の安心感を与えてしまうリスクがあります。

罰則はないが、指導・処分のリスクがある

このガイドラインは法律ではないため、違反した場合の直接的な罰則はありません。
ただし、JAS法による行政指導や、公正取引委員会による排除措置命令が下される可能性があります。
罰則がないこと、またガイドラインの存在自体が広く知られていないこともあり、今もガイドラインに従わない表示が見られるのが現状です。

「無肥料」と「無化学肥料」の違い

なお、ガイドラインで禁止されているのは正確には「無化学肥料」という表現です。「無肥料」(有機肥料を含めた一切の肥料を使わない栽培)は別の概念であり、混同しないよう注意が必要です。

正しい表現方法

農薬や化学肥料を使っていない場合、ガイドラインに沿った正しい表現は次のとおりです。

ガイドラインで認められている表現(例)

  • 「農薬:栽培期間中不使用」
  • 「節減対象農薬:栽培期間中不使用」
  • 「化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用」

また、消費者に向けた説明文としては、以下のような表現が適切です。

  • 「栽培期間中、農薬や化学肥料を使わずに育てました」
  • 「農薬や化学肥料に頼らず作物を育てています」

「完全ゼロ」と断言するのではなく、「自分が何を使わなかったか」を正直に伝える表現が、消費者の誤解を招かない正しい伝え方です。

海外ではどうなのか?

日本ほど明確にガイドラインで禁止している国は多くありませんが、どの国でも消費者に「完全ゼロ」と誤認させることは避けるよう求められています。

国・地域 主な状況
アメリカ 「pesticide free」などは条件付きで使用可能だが説明義務あり。実務上はUSDA Organic(有機認証)が基準として重視される
EU EU Organic認証が安全性証明として主流。「無農薬」的な独自表示はほぼ行われない
中国 法律上の禁止はないが、虚偽表示は食品安全法・広告法で取り締まられる。2019年以降はラベル管理が強化

まとめ

  • 「無農薬」「無肥料」は、完全にゼロと誤解させる恐れがあるため、ガイドラインで使用が禁止されています
  • 農家が直売など特定の顧客に販売する場合はガイドラインの適用外(ただし景品表示法は常に適用)
  • 禁止の理由は、消費者が「残留農薬ゼロ」と誤認するリスクがあるため
  • 不特定多数向けの正しい表現は「農薬:栽培期間中不使用」など、栽培管理の事実を正直に示すもの
  • 直接的な罰則はないが、行政指導や処分のリスクはある

表現ひとつひとつに、消費者への誠実さが問われています。

安心して選んでもらえるように、ノカノワではこれからも誠実な言葉で、農家さんのリアルな姿を伝えていきます。

農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」本文PDF(平成19年3月改正・現行版)
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/tokusai_a-5.pdf

農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン Q&A」PDF(6割以上の誤認データの引用元)
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/tokusai_qa.pdf

農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」案内ページ
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/tokusai_a.html