農業資材の高騰で見直したい、栽培の3つの基本原則【土地・作物・タイミング】
ホルムズ海峡では武力衝突により商船の航行が大きく制限され、実質的な封鎖状態となりました。
世界の原油輸送量の約2割が通過するこの海峡の封鎖により、日本への原油供給に対する不安が高まりました。輸入原油の約9割を中東に依存する日本にとって、これは「遠い中東の話」ではありません。
農業の現場でも影響はすでに出始めています。
化学肥料の原料となる尿素やアンモニアは海外からの輸入に大きく依存しており、国際的な価格が急上昇しています。
マルチシートやビニールなどプラスチック系資材の原料となるナフサも、価格の上昇に加え、資材によっては品薄や納期の遅れが発生し、従来どおりに調達しにくい状況になっています。
これまで資材を使ってきたプロの農家さんが、資材に頼らない栽培に切り替えることは現実的ではありません。
ですが、家庭菜園を楽しんでいる方や、これから農業を始めたいと考えている方にとっては、これを機に資材に頼らない栽培を試してみるきっかけになるかもしれません。
そこで今回は、栽培の3つの基本原則をご紹介します。
資材を使う場合でも大切な原則ですが、資材に頼らない栽培を目指すなら、より一層重要になってきます。
1. 土地の環境を知る
栽培において、まず押さえておきたいのがその土地の環境です。
土地の環境とは、土壌の性質だけでなく、気候、気温、年間の降水量、日照時間、地形、風通し、これらすべてを含めたその場所固有の総合的な特性のことです。
例えば同じ畑の中でさえ、条件は場所によって大きく異なります。南向きで日当たりの良い場所と、塀の陰になりやすい場所では、日照時間が数時間単位で変わることもあります。
粘土質で水はけの悪い場所は、雨のあとに長く水が残り根腐れのリスクが上がります。
一方で砂質の土は水はけが良い分、乾燥しやすく養分も流れやすい。
こうした条件の違いは、肥料を多く入れたり水をこまめにやったりすることで多少は補えますが、根本的に変えることは容易ではありません。
だからこそ自分の畑の個性を丁寧に観察し、その特性を把握することがすべてのスタートになります。
ワインの世界には「テロワール」という言葉があります。
土壌・気候・地形など、その土地固有の環境がワインの個性を決めるという考え方です。
農業の世界でも近年この考え方が注目されており、作物の栽培も本質的には同じで、土地の個性を知ることが良い栽培の出発点になります。
2. 作物の適性を理解する
土地の環境を把握したら、次に大切なのは「育てたい作物がどんな環境を好むか」を知ることです。
作物にはそれぞれ原産地や進化の過程で培ってきた基本的な特性があります。
ただし品種改良や栽培技術の進歩により特性が改善されている品種も多いため、以下はあくまで一般的な傾向として参考にしてください。
例えば以下のような傾向があります。
水はけへの適性
- 過湿を嫌う:トマト、ピーマン、タマネギ、ニンニク、サツマイモ
- 湿り気を好む:サトイモ、ミョウガ
土質への適性
- やせた土壌でも育つ:マメ類(根粒菌の働きによる)
- 酸性土壌に比較的強い:ジャガイモ、サツマイモ
日照への適性
- 日当たりが必要:トマト、キュウリ、カボチャなどの果菜類
- 半日陰でも育つ:ミツバ、小松菜、レタスなどの葉物野菜
大事なのは、育てたい作物の特性をあらかじめ知っておくことです。
それだけで、栽培の判断が大きく変わってきます。
3. 作付けのタイミングを合わせる
土地を知り、作物の特性を理解した。しかしそれだけではまだ十分ではありません。
「いつ植えるか」「いつ種を蒔くか」というタイミングが、最終的な成否を大きく左右します。
同じ作物を同じ畑で育てても、種を蒔く時期や苗を植える時期が1〜2週間ずれるだけで、その後の生育に驚くほど大きな差が生まれることがあります。
地温が低すぎる時期に種を蒔けば発芽が遅れ、根が十分に張れないまま生育が始まります。
気温が高すぎる時期に苗を植えれば、活着する前に苗がダメージを受けます。
そして特に気をつけたいのが、病害虫の発生ピークと作物の生育ステージの重なりです。
まだ株が小さく弱い時期に害虫の大量発生や病気が重なると、農薬を使用しても被害を十分に抑えられないことがあります。
逆にベストなタイミングで植えることができれば、作物がしっかりと根を張り、健全に生育することで病害虫の影響も受けにくくなります。
その結果、農薬や追加の資材に頼る場面が自然と減っていきます。
ただし、その「ベストなタイミング」は毎年同じとは限りません。
近年は猛暑や暖冬、集中豪雨など天候の変動が大きくなっており、例年どおりの時期に種をまいたり苗を植えたりしても、思うような結果にならないことがあります。
その年の気温や地温、降水量などを見ながら、柔軟に判断することが大切です。
その土地で長年農業を続けている農家さんの経験は、大きな手がかりになります。
地域特有の気候や土壌を熟知しているだけでなく、長年の経験から、その地域に合った作付けのタイミングや、天候の変化に応じた判断も積み重ねているからです。
タイミングは、土地と作物の組み合わせを最大限に活かすための最後の判断です。
そしてこの判断は、土地の環境と作物の適性をしっかり理解していなければ正確に下すことができません。
このように、土地・作物・タイミングの3つは、それぞれが独立しているようで深く連動しています。
資材に頼らざるを得ない現実
これらの原則は資材に頼らない、または資材の使用を減らしている農家さんが日頃から気をつけ、実践していることでもあります。
しかし、日本の大部分の農家さんにとって、資材をやめることは現実的ではありません。
化学肥料や農薬が日本農業に広く普及したのは高度経済成長期のことです。
戦後の食料難を背景に、政府の食料増産政策のもとで農業の近代化が進み、化学肥料や農薬はその中心的な役割を担ってきました。
限られた農地で安定した収量を確保するために、資材への依存は日本農業の構造に深く組み込まれていきました。
さらに、日本は温暖多雨な気候のため、病害虫や雑草が発生しやすく、農薬を使わない場合の減収や品質低下のリスクが欧州と比べて高いという実情があります。
市場に安定して出荷しなければならない農家にとっては、資材は経営を支える欠かせない存在です。また日本の消費者の品質基準は世界的にも厳しく、見た目や規格が揃っていなければ市場で評価されないという現実もあります。
マルチシートやビニールハウスなども同様です。
時期をずらした出荷、大量安定生産、労力の軽減、気象リスクの回避などには、こうした資材は欠かせない存在となっています。
資材価格の高騰や調達の難しさが続くいま、日本の大部分の農家さんは非常に厳しい状況に置かれています。
まとめ
土地・作物・タイミング。この3つを知っているかどうかで、栽培の結果は大きく変わってきます。
資材がなくても、あるいは資材を使いながらでも、この原則は栽培の土台として役立ちますが、資材に頼らない場合は、この原則はより重要になります。
生育が遅れても速効性の肥料で補うことも、病害虫が出ても農薬で対処することもできないからです。
ホルムズ海峡をめぐる緊張が続くいま、の現場で起きていることは決して遠い世界の話ではありません。
この機会に、食べ物がどのような条件のもとで育てられているのか、その基本を知るきっかけになれば幸いです。
ホルムズ海峡が止まると農業コストはいくら上がるか(sanchi.jp)